% 視覚障害者向けAudacity操作マニュアル % 北畠 一翔 % 2021/3/1
音声編集ソフト「Audacity」は、無料で入手できるソフトの中でも特に機能が豊富で、音声の録音と編集に必要な機能のほとんどが搭載されています。 また、視覚障害者が画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)と共に使用することも想定されており、一部の機能を除き、快適に利用できます。 しかし、機能が多い一方で操作がやや複雑で、使いこなすのは容易ではありません。
このテキストでは、Audacityの基本的な操作を中心に、最低限必要な操作方法について解説します。
なお、このテキストにはWindows版Audacityについての情報を掲載しています。
Audacityは、Windows、Mac、GNU/Linuxなど、様々な環境で使用できる音声録音・編集ソフトです。 Webサイトやマニュアルなどのリソースは英語ですが、画面表示は日本語を含む多くの言語に翻訳されています。
音声の一部をコピーしたり、削除したり、移動したりといった基本的な機能はもちろん、テンポやピッチの変更、エコーなどのエフェクトを多く搭載しています。 また、エフェクトを自作したり、インターネット上に公開されているエフェクトをダウンロードして利用したりすることもできます。
なお、Audacityは「オープンソース」のソフトウェアです。 プログラムの設計図に当たるソースコードが公開されており、誰でも開発に参加できます。 また、翻訳に問題があった場合に、それを自分で修正し、ソフトウェア本体に取り込んでもらうということもできます。 実際の作業には専門的な知識が必要ですが、誰でもAudacityの開発に貢献できるというのは大変有意義なことです。
Audacityは、視覚障害者が使用することを想定してアクセシビリティ対応を行っています。 ここでは、その取り組みの一部を紹介します。
沢山のキーボードショートカットがあり、マウスを使わなくてもほとんどの操作ができます。 また、好みに応じてキーボードショートカットを変更することもできます。
ただし、以下の部分は、キーボード操作を完全にはサポートしていません。
- タイムトラック
- 道具箱ツールバー(選択ツールのみキーボードで使用可能)
Windows版とMac版のAudacityは、スクリーンリーダーで使用できます。 Windowsでは、JAWS、NVDA、Windows10のナレーターでの動作が確認されています。
ただし、以下の部分はスクリーンリーダーで使用できません。
- エンベロープツール
- タイムトラック
なお、日本でよく利用されているスクリーンリーダーであるPC-Talkerでも、ある程度Audacityの操作が可能です。
Audacityをダウンロードするには、AudacityのWebサイト(後述)を使用します。 ただし、ウェブサイトの構造は変化する可能性があるため、このテキストには具体的な方法を記載していません。
Windows版Audacityには、インストーラー版とZip版があります。 どちらを使用しても、操作性に違いはありません。
なお、Zip版を使用している場合には、Audacityを展開したフォルダ内に「Portable Settings」というフォルダを作成してから起動すると、設定ファイルが全てこのフォルダに保存されます。 Audacity本体と設定ファイルをUSBメモリに入れて持ち運びたい場合に便利です。
以下に、Audacityを使い始めるに当たって役立つと思われるウェブサイトへのリンクを記載します。 なお、いずれも内容は英語です。
このテキストでは、Audacityの基本的な操作や概念を中心に解説しています。 Audacityの全ての機能を網羅しているわけではありません。
なお、表記内容はAudacity Version 2.4.2での表示に準じています。 ソフトウェアの更新の結果、操作方法や表示内容が変更される可能性があります。 あらかじめご了承ください。
ここでは、Audacityを使い始めるに当たって最低限必要な設定を紹介します。 また、Audacityを使う上で知っておいた方がよい事柄についても、簡単に説明します。
初めてAudacityを起動すると、「Audacity へようこそ!」というダイアログボックスが表示されます。 ここには、Audacityのヘルプにアクセスする方法などが書かれています。 ヘルプへのリンクがありますが、残念ながら、キーボードでこれらのリンクを選択することができません。
Tabキーを押すと、「次回からは起動時に表⽰しない」というチェックボックスに移動します。 ここにチェックを入れて、「OK」ボタンを押すと、このダイアログを閉じることができます。
Audacityには膨大なキーボードコマンドがありますが、初期状態ではそれらの一部が動作しません。 そこで、以下の操作を行って、全てのキーボードコマンドが使用できるように設定しましょう。
- Ctrl+Pを押して、設定画面を開きます。
- 上下カーソルキーで「キーボード」を選択します。
- Tabキーで「既定値」ボタンに移動してSpaceキーを押します。
- 上下カーソルキーで「Full」を選択してEnterキーを押します。
- Tabキーで「OK」ボタンに移動してEnterキーを押します。
通常、日本語環境のWindowsでAudacityを起動すると、画面表示も日本語に設定されます。 しかし、Audacityの日本語訳は不十分で、一部が翻訳されていなかったり、不適切な訳語が使用されていたりします。 表示内容がわかりにくいと感じる場合、自分で翻訳ファイルを編集することもできますが、Audacityの言語設定を英語に変更することも有効かもしれません。 以下の手順で、表示言語を変更できます。
- Ctrl+Pを押して、設定画面を開きます。
- 上下カーソルキーで「Interface」を選択します。
- Tabキーで「表示言語」に移動し、上下カーソルキーで「English」を選択します。
- Tabキーで「OK」ボタンに移動し、Spaceキーを押します。
なお、このテキストは、日本語環境のAudacityを前提に記載しています。
audacityを使って音声の録音や再生を行うには、使用するオーディオデバイスを設定する必要があります。 デバイスを設定するには、環境設定(ctrl+P)の「デバイス」カテゴリを使用します。
「ホスト」では、サウンドデバイスとAudacityの間での通信に使用するインターフェイスを選択します。 以下の選択肢があります。
- MME
- Windows DirectSound
- Windows WASAPI
通常は「MME」を使用すれば特に問題ありません。
また、再生デバイスと録音デバイスの設定では、使用するオーディオデバイスを選択します。 可能であれば、スクリーンリーダーの音声を再生するデバイスとAudacityが使用する再生デバイスを分けておいた方がよいでしょう。
全ての設定が終わったら「OK」ボタンを押して設定を保存します。
ここからは、Audacityを使う上で重要になる言葉や概念について簡単に説明します。
Audacityのウェブサイトを見ると、「multi-track audio editor and recorder」という表現が沢山出てきます。 同じことを日本語で表現することは困難ですが、「複数のトラックを扱えるオーディオ録音・編集ソフト」というような意味になるでしょう。
では、「トラック」とは何でしょうか。 これは、CDの「トラック1」「トラック2」などとは意味が少し異なります。
突然ですが、皆さんが日頃聞いている音楽を思い浮かべてください。 どんな音楽でも良いのですが、バンドで演奏されるような音楽をイメージすると、この後の説明がわかりやすくなります。 一般的に、音楽は複数の音が重なってできています。
- ドラム
- ベース
- ギター
- キーボード
- ボーカル
- コーラス
これらが一緒になって初めて、音楽ができあがります。
このような音を録音しようとしたとき、昔は、全員が同時に演奏し、それを録音していました。 しかし、最近では、各パートを別々に録音し、最後にそれらを混ぜ合わせて1つの音にするというやりかたが一般的です。 この方法を使えば、ボーカルのピッチを少しいじったり、あるパートにだけエフェクトをかけたりしても、他のパートの音に影響を与えることがなく、自由な編集が可能になるからです。
以上のような録音方法において、各パートのことを「トラック」と言います。 例えば、トラック1にはドラム、トラック2にはベース、というように録音していき、最後に全てを1つにまとめるわけです。 Audacityを使えば、このようなことが可能になります。
上記の例は音楽に関するものでしたが、ラジオ番組やポッドキャストを作る際に、ナレーションとBGMを混ぜ合わせるようなときにもこの仕組みは便利です。 各トラックの音量は独立して調整でき、1つの音源の中で音量を変更することもできます。 また、各トラックの音が再生されるタイミングを変更することもできます。 これらの機能を活用すれば、
- 最初にBGMが鳴り始める
- あるタイミングでナレーションが始まる
- ナレーションが始まるのと同時にBGMの音量が下がる
- ナレーションの終了と同時にBGMの音量も元に戻る
という音源を作ることが可能になります。
上記で説明したようなトラックを、Audacityでは「オーディオトラック」と呼んでいます。 Audacityで扱うことのできるトラックにはいくつか種類があり、それらと区別するためにこのような名称が付いています。 なお、このテキストではオーディオトラック以外のトラックを扱っていないため、オーディオトラックのことを「トラック」と呼ぶことにします。
Audacityでは「プロジェクト」という単位でデータを管理できます。 「プロジェクト」は、Microsoft Wordの「文書」や、Microsoft Excelの「ブック」に似ています。
先ほど、ラジオ番組を作るという例を出しました。 番組の音源を取り終えて編集しているとき、そのプロジェクトには少なくとも2つのトラックがあるはずです。 具体的には「BGM」と「ナレーション」です。
この状態で、データをファイルに保存することを考えます。 Audacityでは、編集した結果を音声ファイルとして保存することができます。 上記のプロジェクトを保存すると、通常はBGMとナレーションがミックスされた音声ファイルが作られます。 このファイルを再度Audacityで編集しようとすると、ナレーションだけを編集したり、BGMだけを編集したりといったことが全くできず、複数のトラックを使っていた利点が生かせなくなってしまいます。
そこで、Audacity上での現在の作業状態を、そのままファイルに保存してしまう機能があります。 この方法で作られたファイルを「Audacityプロジェクトファイル」といいます。
Audacityプロジェクトファイルは「project.aup」というように、「aup」という拡張子がついています。 また、プロジェクトファイルを保存すると、同じフォルダに「project_data」というように、末尾に「_data」という文字列が付いたフォルダが作成されます。 このフォルダには、プロジェクトファイルが内部で使用するデータが格納されています。 このフォルダの中身を手動で変更したり、このフォルダを削除したりすると、プロジェクトファイルを正しく読み込むことができなくなります。
Audacityにおけるカーソルは、ワードプロセッサーなどにおけるカーソルとほとんど同じで、編集する位置を示すために使います。 ただし、再生・録音位置とカーソルは必ずしも連動しないという点には注意が必要です。
Audacityで再生や録音を始めると、カーソル位置から末尾に向かって進んでいきます。 このとき、再生や録音を行っている位置を「音声位置」と呼ぶ場合があります。 再生・録音を行っている最中は、「音声位置」は変化しますが「カーソル」は動きません。 あるタイミングで「停止」ボタンを押すと音声位置がリセットされ、次に再生を始めると、再びカーソル位置から再生が始まります。
ここでは、Audacityの画面に表示される要素について詳しく説明します。 また、それらの間を移動したり、内容を確認したりする方法についても紹介します。
Audacityの起動直後など、特に名前の設定されていないプロジェクトを開いている場合、タイトルバーには「Audacity」と表示されます。 現在開いているプロジェクトに名前が設定されている場合、タイトルバーにはプロジェクトの名前が表示されます。
メニューバーには、以下の項目が表示されています。
- ファイル
- 編集
- 選択
- 表⽰
- 録⾳と再⽣
- トラック
- ジェネレーター
- エフェクト
- 解析
- 道具箱
- ヘルプ
これらに加えて、「拡張」というメニューがありますが、初期状態では表示されません。 これを表示するには、環境設定の「Interface」カテゴリで、「[拡張] メニューを表⽰」を有効にしてください。
何も設定を変更していなければ、上ツールバーには以下の項目が表示されます。 ここに表示する項目は自由に変更でき、不要な項目を非表示にすることもできます。
- 録⾳/再⽣ツールバー
- 道具箱ツールバー
- 録⾳メーターツールバー
- 再⽣メーターツールバー
- ミキサーツールバー
- 編集ツールバー
- 変速再⽣ツールバー
- デバイスツールバー
現在のプロジェクトに含まれるトラックが表示されます。
何も設定を変更していなければ、下ツールバーには以下の項目が表示されます。
- 選択ツールバー
- Timeツールバー
現在の状態が表示される部分です。
Audacityを起動した直後は、「トラックビュー」にフォーカスがあります。 Ctrl+F6を押すと、以下の順序でフォーカスが移動します。
- 下ツールバー
- 上ツールバー
- トラックビュー
- 下ツールバー
- 以下繰り返し
Ctrl+Shift+F6を押すと、逆の順序で項目間を移動できます。
以下、上記の各構成要素について、関連する操作を説明します。
ほとんどのスクリーンリーダーには、タイトルバーを読み上げるコマンドが用意されています。 Audacityを操作しているときにそれらのコマンドを実行すると、Audacityのタイトルバーを読み上げます。 各スクリーンリーダーの操作については、ご使用のスクリーンリーダーのマニュアルを参照してください。
Altキーを押すと、メニューバーにフォーカスが移動します。 もう1度Altキーを押すか、Escapeキーを押すと、元の位置にフォーカスが戻ります。
Ctrl+F6で上ツールバーに移動した状態では、Tabキーを使って項目の間を移動できます。 沢山のツールバーがありますが、現在操作しているのがどのツールバーであるかを知る方法はありません。 Tabキーで目的の項目に移動後、Spaceキーでボタンを押す、カーソルキーで選択を変更するなどの操作を行います。
トラックビューでは、上下カーソルキーでトラックの間を移動します。 また、トラックにフォーカスを移動してEnterキーを押すと、そのトラックを「選択」できます。
上ツールバーと同様、Tabキーで項目の間を移動します。 現在操作している項目がどのツールバーに該当するかを確認することはできません。
各スクリーンリーダーのステータスバー読み上げコマンドを使用して、Audacityのステータスバーを確認できます。 具体的な操作については、ご使用のスクリーンリーダーのマニュアルを参照してください。
ここでは、すでにある音声ファイルをAudacityで読み込んだり、完成したデータを様々な形式で書き出したりする方法を説明します。
プロジェクトファイルや音声ファイルを開くには、メニューバーの「ファイル」→「開く」を選択します。 また、メニューを開かなくても、Ctrl+Oを押すとこの操作を実行できます。
上記のコマンドを実行すると、「1 つ以上のファイルを選択してください」というダイアログが表示されます。 このダイアログはWindows標準の「ファイルを開く」ダイアログですが、「Windows XPスタイル」という古い形式になっています。
ここでプロジェクトファイルを選択すると、該当するプロジェクトが読み込まれます。 WAVなどの音声ファイルを選択すると、該当する音声ファイルのみを含む新しいプロジェクトが作られ、プロジェクト名は音声ファイルの名前と同じになります。 同時に複数の音声ファイルを選択した場合は、それぞれが別のプロジェクトに読み込まれます。 現在のプロジェクトに音声ファイルを取り込む場合は、[音声の取り込み]を使用する必要があります。
「音声の取り込み」を使用すると、現在のプロジェクトに別の音声ファイルのデータを取り込むことができます。 取り込んだデータは、ファイルごとに独立したトラックになります。
この機能を使用するには、メニューバーの「ファイル」→「取り込み」→「音声の取り込み」を選択するか、Ctrl+Shift+Iを押します。 上記のコマンドを実行すると、「1 つ以上のファイルを選択してください」というダイアログが表示されます。 このダイアログはWindows標準の「ファイルを開く」ダイアログですが、「Windows XPスタイル」という古い形式になっています。
ファイルを選択すると、現在のプロジェクトに新しいトラックが作成され、そこに選択したファイルの内容が取り込まれます。 作成されるトラックの名前は、取り込んだファイルの名前と同じです。 また、Audacityの起動直後など、空のプロジェクトを開いた状態でこの機能を使用すると、最初に取り込んだファイルの名前が自動的にプロジェクト名として設定されます。
現在のプロジェクトをプロジェクトファイルに保存するには、メニューバーの「ファイル」→「保存」→「保存」を使用します。 また、ファイル名や保存場所を変更して別のプロジェクトファイルとして保存する場合は、「名前をつけて保存」を使用します。
プロジェクトファイルではなく音声ファイルとしてデータを保存するには、メニューバーの「ファイル」→「書き出し」→「音声の書き出し」を選択するか、Ctrl+Shift+Eを押します。 また、「選択した音声の書き出し」は、音声の一部をファイルに書き出したい場合に使用します。
上記のコマンドを実行すると、「音声の書き出し」というダイアログボックスが表示されます。 このダイアログはWindows標準の「名前を付けて保存」ダイアログですが、「Windows XPスタイル」という古い形式になっています。 また、「ファイルの種類」で選択した形式に応じて、音声の品質などを設定するコントロールが表示されます。
「保存」ボタンを押すと、ファイルのメタデータ(アーティスト名やタイトル)を入力する画面が表示されます。 特に設定する必要がなければ、何も変更せずにEnterキーを押します。
一部の形式のファイルを読み書きする際、「FFmpeg」というソフトウェアが必要になる場合があります。 FFmpegは動画や音声に関する様々な機能を持つ汎用のツールで、他のソフトに同梱されていることも少なくありません。
すでにFFmpeg 2.2を持っている場合は、環境設定の「ライブラリ」からFFmpegの場所を設定するだけで問題ありません。
FFmpegを持っていない場合は、FFmpegのダウンロードページから「ffmpeg-win-2.2.2.exe」をダウンロードして、FFmpegをインストールしてください。
なお、Audacityの起動中にFFmpegのインストールを行った場合は、Audacityを再起動する必要があります。
ここでは、Audacityの最も基本的な操作について解説します。
まずは、音声の再生に使用するキーボードコマンドを列挙します。
再生・停止 : Space
再生・停止(カーソルの移動を伴う) : X
一時停止 : P
再生中に少し早送り : 右矢印
再生中に少し早戻し : 左矢印
再生中に大きく早送り : Shift+右矢印
再生中に大きく早戻し : Shift+左矢印
上記のコマンドのうち、再生・停止コマンドについては注意が必要です。 Spaceキーで再生を停止した場合、カーソルは再生を開始した位置にあります。 再生を停止した際にカーソルを停止位置に移動させたい場合は、Xキーを使用する必要があります。
なお、再生コマンドを実行すると、通常はカーソル位置から最後まで再生されます。 ただし、特定の範囲を選択している場合は、選択範囲のみが再生されます。
録音を開始するには、Rキーを押します。
プロジェクトにトラックが存在しない状態でこのコマンドを実行すると、自動的に新しいトラックが作成されます。 また、すでに音声が存在する状態で録音を行った場合、既存の音声の末尾に追加されます。
録音を停止するには、Spaceキーを押します。
Audacityでは、再生開始位置を指定したり、選択開始位置を指定したり、オーディオを貼り付ける位置を指定したりする目的で「カーソル」を使います。 カーソルを移動するには、いくつかの方法があります。
- Homeキーを押すと、プロジェクトの先頭の位置(0位置)にカーソルが移動します。
- Endキーを押すと、プロジェクトの末尾にカーソルが移動します。
- 選択したトラックの先頭にカーソルを移動するにはJキー、トラックの末尾にカーソルを移動するにはKキーを押します。「トラックの選択」については後述します。
- 再生中にXキーを押して再生を停止すると、停止した位置にカーソルが移動します。
- 再生していない状態で.(ピリオド)キーを押すと、カーソルが少し進みます。,(カンマ)キーを押すと、カーソルが少し戻ります。これらのコマンドにShiftキーを加えると、より大きくカーソルを移動できます。ただし、これらのコマンドは、トラックビューにフォーカスがある場合にのみ機能します。
上記のコマンドに加えて、Audacity 2.4から、「スクラブ再生」という機能がキーボードで操作できるようになりました。 スクラブ再生とは、オーディオの指定した部分を指定した通りに再生できる機能で、逆再生を行うこともできます。
Iキーを押すと順方向、Uキーを押すと逆方向に再生を開始します。 これらのキーを離すと再生を停止します。 また、再生と連動してカーソルも移動します。
スクラブ再生の速度は、Audacityの拡大率によって変化します。 メニューバーの「表⽰」→「拡⼤率」→「元の縮尺に戻す」を選択するか、Ctrl+2を押すと、半分の速度で再生が行われるようになります。 Ctrl+1を押して拡大すると、さらに再生速度を下げることができます。 Ctrl+3を押して縮小すると、さらに再生速度を上げることができます。
Audacityで音声の一部を切り取ったり、コピーしたり、削除したり、エフェクトをかけたりする際、対象の音声を「選択する」という操作が必要です。 他の音声編集ソフトと異なり、Audacityは複数のトラックを扱えることから、音声を選択する操作は少し複雑です。
- [時間の範囲を選択する]
- [対象のトラックを選択する]
という2段階の操作が必要です。
以下、それぞれの操作について説明します。
最も簡単に選択範囲を指定するには、以下の方法を使用します。
- Spaceキーで音声の再生を開始します。このとき、カーソルは選択開始位置よりも手前に移動しておく必要があります。
- 選択を開始したい位置を再生しているときに、[(大括弧開き)キーを押します。
- 選択を終了したい位置を再生しているときに、](大括弧閉じ)キーを押します。
- Spaceキーで再生を停止します。このとき、Xキーで再生を停止してしまうとカーソルの移動と同時に選択が解除されるため、注意が必要です。
また、より細かく選択範囲を指定する方法として、「選択ツールバー」を利用する方法があります。 選択ツールバーは、下ツールバーの一部として表示されています。 下ツールバーにフォーカスを移動するには、Ctrl+F6を押します。
下ツールバーに移動後、Tabキーを何度か押すと、「開始」、「終了」というコントロールがあります。 これらは、選択の開始位置と終了位置を確認したり、設定したりするためのコントロールです。
何も設定を変更していない場合、「00時間00分00.000秒」というように表示されます。 左右カーソルキーを使用して一桁ずつカーソルを移動し、上下カーソルキーで値を変更できます。 また、0から9までの数値を直接入力すると、カーソル位置の数値が入力した値に変更され、自動的にカーソルが1つ右に移動します。 なお、Homeキーを押すと1番左に、Endキーを押すと1番右にカーソルを移動できます。
例えば、選択開始位置を「3秒」、選択終了位置を「5秒」に設定するには、以下のように操作します。
- 「開始」にフォーカスを移動します。
- Homeキーを押します。
- 以下の順序で数値を入力します。
- 0
- 0
- 0
- 0
- 0
- 3
- 0
- 0
- 0
- Tabキーを押して「終了」にフォーカスを移動します。
- Homeキーを押します。
- 以下の順序で数値を入力します。
- 0
- 0
- 0
- 0
- 0
- 5
- 0
- 0
- 0
なお、「開始」、「終了」のいずれかにフォーカスがある状態でアプリケーションキーかShift+F10を押してコンテキストメニューを開くと、数値の表示形式を変更できます。 初期状態では「時:分:秒 + ミリ秒」に設定されています。 この変更は、「開始」と「終了」の両方に反映されます。
また、選択ツールバーには「表示」というコンボボックスがあり、選択範囲の指定方法を変更できます。 初期値は「選択範囲の開始点と終了点」ですが、「選択範囲の開始点と長さ」、「選択範囲の長さと終了点」、「選択範囲の長さと中点」というような形式にも変更できます。
選択範囲の指定には、下記のコマンドも使用できます。
プロジェクトの先頭(0位置)からカーソル位置までを選択 : Shift+Home
カーソル位置からプロジェクトの最後までを選択 : Shift+End
選択したトラックの開始点からカーソル位置までを選択 : Shift+J
カーソル位置から選択したトラックの最後までを選択 : Shift+K
トラックビューで上下カーソルキーを押して各トラックにフォーカスを移動することを「選択」と表現したくなるところですが、ここでは、混乱を避けるために「トラックにフォーカスする」と呼ぶことにします。
トラックにフォーカスしたとき、トラック名に続けて「選択」と読み上げられることがあります。 これは、現在フォーカスしているトラックが「選択」されていることを意味します。 フォーカスしているトラックの選択状態を切り替えるには、Enterキーを押します。
同時に複数のトラックを選択することもできるため、自分がどのトラックを選択しているかを常に意識する必要があります。
Ctrl+Aを押すと、全てのトラックの全てのオーディオが選択されます。 つまり、選択開始位置はプロジェクトの先頭(0位置)で、選択終了位置はプロジェクトの末尾になり、現在のプロジェクトに含まれる全てのトラックが選択されます。
Ctrl+Shift+Aを押すと、何も選択されていない状態になります。 全トラックの選択を解除したい場合に便利です。
選択操作を行ったとき、自分の意図したとおりに選択されているかどうかを確認したくなることがあります。 Spaceキーで再生すると選択範囲を確認できますが、以下のようなコマンドもあります。
選択開始位置の前をプレビュー : Shift+F5
選択開始位置の後をプレビュー(選択範囲の最初の部分) : Shift+F6
選択終了位置の前をプレビュー(選択範囲の最後の部分) : Shift+F7
選択終了位置の後をプレビュー : Shift+F8
選択範囲の前後をプレビュー(選択した部分をカットして、その前後を続けて再生する) : C
選択開始位置の前後をプレビュー : Ctrl+Shift+F5
選択終了位置の前後をプレビュー : Ctrl+Shift+F7
ここでは、Audacityを使った音声編集について、基本操作を説明します。
なお、以下の説明では、プロジェクトに1つのトラックがあり、そこに何らかの音声が記録されていることを想定しています。
音声の一部を選択した状態で、以下のコマンドを利用できます。
切り取り : Ctrl+X
コピー : Ctrl+C
削除 : Delete
選択範囲を無音にする : Ctrl+L
トリミング(選択範囲を残し、その前後を削除) : Ctrl+T
貼り付け : Ctrl+V
必要な部分を誤って削除してしまった場合など、過去に行った編集を取り消して前の状態に戻したくなることがあります。
Audacityでは、Ctrl+Zを押すことで、過去の状態に戻すことができます。 このコマンドでは、Audacityを起動後に行ったほとんどの操作を取り消すことができます。 ただし、Audacityプロジェクトファイルには作業履歴が保存されないため、保存したプロジェクトファイルを開いてCtrl+Zを押しても、過去の作業を取り消すことはできません。
また、Ctrl+Zを押しすぎてしまった場合には、Ctrl+Yを押すことで過去に行った作業をやり直すことができます。
音声の一部にエフェクトをかけるには、メニューバーの「エフェクト」から目的のエフェクトを選択します。 ただし、事前に音声の一部を選択している必要があります。
Audacityには、非常に多くのエフェクトが搭載されています。 Audacityに付属するエフェクトについては、Audacityマニュアル内のエフェクト一覧(英語)を参照してください。 また、インターネット上からエフェクトをダウンロードしたり、自分でエフェクトを作ったりすることもできます。
「エフェクト」メニューからエフェクトを選択すると、ほとんどの場合各種パラメータを調整するためのダイアログボックスが開きます。 項目間の移動にはTabキーを使います。 「プレビュー」ボタンを使用して、現在の設定でのエフェクトの係具合を確認できます。
最後に使用したエフェクトを同じ設定で再度適用するには、Ctrl+Rを押します。
ここでは、Audacityで複数のトラックを扱う際によく使う操作を解説します。
新しいトラックを作成し、そこに音声を録音するには、Shift+Rを押します。 通常の録音と異なり、他のトラックの音を聞きながら重ねて録音することができます。 録音を停止するには、Spaceキーを押します。
トラックビューには、現在のプロジェクトに存在するトラックが上下に並んで表示されています。 上下カーソルキーを使用して、各トラックにフォーカスを移動できます。
アプリケーションキーまたはShift+F10を押すと、トラックに対する様々な操作を行うためのメニューが開きます。 このメニューから、トラックの並び順を変更することもできます。
Audacityでは、各トラックの音声が再生されるタイミングを自由に変更できます。 この機能を使用するには、対象のトラックを「選択」する必要があります。
トラックの開始位置を変更するには、メニューバーの「トラック」→「トラックの整列と移動」を使用します。
例えば、「数珠つなぎに整列」を選択すると、上にあるトラックから順番に再生されるようになります。 また、トラックの再生を開始したい位置にカーソルを移動して「開始点をカーソルまたは選択範囲の始めに移動」を実行すると、開始点を自由に設定できます。
プロジェクトの規模が大きくなってくると、大量のトラックが表示され、操作がやや煩雑になることがあります。 このような場合に、複数のトラックを1つにまとめることができます。
対象のトラックを選択し、メニューバーの「トラック」→「ミックス」→「ミックスして作成」を実行すると、「ミックス」というトラックが作成されます。 ただし、「ミックス」トラックを元の複数のトラックに戻すことはできません。
「ミュート」とは、特定のトラックの音を再生しないようにする機能です。 この機能を実行するには、対象のトラックにフォーカスを移動し、Shift+Uを押します。 ミュート状態のトラックは、トラック名に続けて「ミュート」と読み上げられます。
「ソロ」とは、対象のトラックのみを再生し、他のトラックをミュートする機能です。 この機能を実行するには、対象のトラックにフォーカスを移動し、Shift+Sを押します。 ソロ状態のトラックは、トラック名に続けて「ソロ」と読み上げられます。
現在フォーカスのあるトラックのゲイン(音量)を変更するには、Shift+Gを押します。
また、現在フォーカスのあるトラックのパン(左右のバランス)を変更するには、Shift+Pを押します。 パンの規定値は0で、負の値にすると左、正の値にすると右になります。
さらに、ダイアログボックスを開かなくても、下記のコマンドを使用して設定を変更できます。
ゲインを下げる : Alt+Shift+下矢印
ゲインを上げる : Alt+Shift+上矢印
左へパン : Alt+Shift+左矢印
右へパン : Alt+Shift+右矢印
ただし、これらのコマンドを使用した場合、現在どのような値に設定されているかを確認することができません。 必要に応じて各ダイアログボックスを開いて確認する必要があります。
ラジオ番組などを作る場合に、ナレーションの開始と同時にBGMの音量を下げ、ナレーションの終了と同時にBGMの音量を元に戻したいことがあります。 一般的には「エンベロープツール」を使用しますが、残念ながら、エンベロープツールはスクリーンリーダーで使用できません。 その代わりに「自動ダッキング」というエフェクトを使用すると、同じようなことが簡単に実現できます。
具体的な使用方法は、以下の通りです。 ここでは、すでに「BGM」、「ナレーション」という2トラックが作られていることを前提に説明します。
-
音量を調整したいトラック(BGM)の下に、音量調整の基準となるトラック(ナレーション)を配置します。必ず、「BGMのすぐ下にナレーションがある」という状態にする必要があり、間に無関係のトラックがあったり、順序が逆になったりすると正しく動作しません。
-
「BGM」トラックの、自動ダッキングを適用したい範囲を選択します。ナレーションと重なる部分の前後数秒を含む、少し広い範囲を選択しておいた方がよいでしょう。
-
「エフェクト」メニューから「⾃動ダッキング」を選択します。
-
各パラメーターを設定します。大まかな意味は下記の通りです。
Duck amount : ナレーションと重なる部分の音量をどの程度下げるかを設定します。
Maximum pause : 「ナレーション」トラックに無音の区間があった場合、それがナレーションの途中なのか、ナレーションと別のナレーションの間なのかによって、音量調整が必要かどうかが変化します。「Maximum pause」に指定した時間以上の無音部分があった場合、ナレーションはいったん終了したと判断され、BGMの音量は元に戻ります。
Outer fade down length : ナレーションが始まる直前にBGMの音量を下げる時間を設定します。
Outer fade up length : ナレーションが終わった後でBGMの音量を上げる時間を設定します。
Inner fade down length : ナレーションが始まった直後にBGMの音量を下げる時間を設定します。
Inner fade up length : ナレーションが終わる直前にBGMの音量を上げる時間を設定します。
Threshold : 「ナレーション」トラックに音声があることを検知する感度を設定します。
-
必要に応じて「プレビュー」ボタンを押して、意図した設定になっているかどうかを確認します。
-
「OK」ボタンを押すと、実際の処理が行われます。
なお、自動ダッキングは特定のタイミングで音量が変化する波形を作り出しているだけで、トラックの音量を動的に変更している訳ではありません。 従って、後から設定を微調整するのは非常に困難です。